IN05

on 2014.10.9

「いらっしゃい!あ、今日はご飯炊きたてですよ。この前は待たせましたからね」
「え、あ、はは、そっすね」

「じゃあ生姜焼き定食、を」
「はい!」

「待ってくださいねもう少しですからね。そういえば今日は大盛りはいいんですか?」
「あ、あ〜、お願いします」
「はい!りょうかいー!」

「お仕事ですか?」
「ん、えっ?」
「お仕事ですかー!?」
「えっ?」
「こ、こ、ら、へん、お仕事ですか?」
「あ、いや」
「あ!お休み!それはそれはどうも!」

定食屋にて。


「今日、は、どうしましょうか?」
「え〜っと、この前というかいつもと同じで」
「はい」
「前髪が眉にかかるくらいで、あとは耳が出るようにしてもらって…」
「襟足はまとめちゃってって感じです、かね」
「そうっすね、はい」

「どうでしょうか」
「あ、はい、いいと、思います、はい」

「ウチ姉妹店が今度できるですけど、僕はこっち残るんで」
「へー」
「駅の北口近くなんですけど。お客さんは、どこらへんにお住まいですかね」
「あ、僕は南側なんで、こっちの方が近いっすね」
「あ、じゃああ、良かったらこれからも」
「あ、お願いします、引き続き」

美容室にて。


「いらっしゃあーい」
「」

「えーっ、このソイラテを」
「はーい」

「また来てもらって光栄です」
「え、覚えてんすか」
「それは、もう、お客さんなんで」
「へー、じゃあ皆覚えてるんですか」
「いやいやぁ、また来てくれる人だけですよ」
「え、僕2回目ですよ」
「えー、また来てくれる顔してたからー」
「え」
「ハハハ」

喫茶店にて。


定食屋は2回連続カウンターに座ってしまったので、これからテーブル席に座りづらくなった。
男性美容師は店内で一番しゃべりが不得意そうだった。
喫茶店の看板娘っぽい子は特にかわいいとは思わなかったが、身体が細くエプロン姿が良かった。

去年の4月に来てすぐ世田谷区民になったが、1年半経ってやっと世田谷区民というか世田谷区に住んでいるなという実感がなんとなく湧いてきた。
世田谷区は夜歌いながら自転車をこぐ人が多い。


on 2015.6.12

「いらっしゃあ〜い」
「」

「こちら、おしぼりになりま〜す。ご注文はまた…」
「あ、注文します。舞茸の天ぷらとカツ丼」
「あ、ほぁ〜い」

そば屋にて。

南青山勤務になってから井の頭線でなく小田急線を使うようになり、その改札のない駅の西口を使わなくなった。とはいえ月に2回くらいは、まだ西口を出てすぐのところにあるそば屋に行っている。舞茸の天ぷら(350円)とカツ丼(630円)以外頼んだことがない。その後は、向かいのローソンでコーラ買ってジャンプを立ち読みする。

この舞茸の天ぷら。1皿に3個あり、天つゆと塩が授けられる。ひとつずつそれぞれの味で食べて、最後は好きな方で好きなように、もしくはどっちつかずに少しずつ、食べる。いろいろ首をつっこんで、最後に良かった方を選ぶ、もしくは最後まで迷う。まさに自分。

ここの店員全員の返事が鼻をつまんだ感じの「ほぁ〜い」というような返事をする。


「だってさ、ひでき君さ自尊心強いし自分大好きだし語り好きだし、同年代の女の子と話したら絶対相手がつまんないよ。私くらいアラサーの方が全部頷いてくれて幸せよ」
「いやぁ、俺もそう思いますよ」

自分の今の家を見つけてくれたアラサー女性。


「最近中2病と高2病と大2病同時に発症してるみたいなんですよねぇ」
「」

福岡にいた頃からことあるごとに近況を話しているアラサー女性。


2人には共通する所が多い。

近所の緑道沿いに住んでいる。花や植物に詳しい。気を遣わず愚痴や下世話な話や空き家問題や日本バスケットボール協会の話をできる。年の功なのか、実は無礼なのに黙認されいてるのか、目的地を決めてそこに行こうとか、そういう明確なものが毎回薄い。ファミレスをドリンクバーでハシゴしたことさえある。ただ、外が見える席に座ろうとか、この道はいいとか、そういうことには割りとこだわる。でもこれはとても大事なことだと思う。心の健康に貢献してもらっている。

一回や二回ではない会話の中で、話題はすり減り、気はゆるみ、そうなった時にそれでも人に会って話そうと思えるのが、自分の毎日が変化あるものだという証拠なんだろう。

この前初めて目黒天空庭園へ行った。
隣を歩いていていきなり植物の匂いを嗅ぐ人を初めて2人も知った。


on 2016.11.12

「これから緑道への開発が進みますし、お子さんと歩いたりできるようになってきます」

下北沢駅西口を出てから鎌倉通りにさしかかる坂道。家族連れに立地を紹介しながら物件に向かうスーツの男が言っていた。

3年前、小田急線の線路が地下に潜ってから間もなく僕は下北沢に住み始めたので、街が開発されている日常こそが原風景になりつつある。だからなのか、地上に取り残された線路の跡地がどういう風に街の一部になっていくのか、特に立ち止まって考えたこともなく。それが緑道になることは最近知った( 下北沢など小田急線地上の開発構想まとまる

既に家から近くに中目黒まで続く北沢川緑道があるので、さらにこの駅の緑道が完成すれば、2本の緑道に挟まれるとても恵まれた環境になっていくんだろうな。区画整理などにとどまらず最近は家のまわりに3,4階の高級マンションを建てようと数軒の工事が進んでいる。新しい緑道計画のイメージ通りなら道が整備されればその周りはさらに急速に家庭的な光景が増えていくはずだ。


「豚まんひとつ」
「ピザまんで」
「いや、豚まん」
「あ、はい、豚まん」
セブンイレブンにて。

人それぞれ、自分だけに降りかかっているであろうとても小さな災難というのがきっとあると思う。僕は「ちゃんとご飯食べてる?」ってはじめて会った人にでさえ多くの確立で言われる。ちゃんと食べてるよ。あと吉村って名字すごい間違われる。そして最近では、セブンイレブンで豚まんって言ってるのに店員が絶対ピザまんを取ろうとする。3回あった。

「かしわ天揚げたてのに交換しましょうね〜」
「あ、はい、どうも…」
丸亀製麺にて。

「豚キムチ丼、おまたせしました〜」
「あの、おかずだけ頼んだんですけど」
「あ、えっ、ごめんなさい、じゃあ良かったらこのままもらって。ごめんなさいね」
「」
オリジン弁当にて。

自分に備わったとても小さな特殊能力というのもきっとあると思う。食に従事する中年女性を惹き付ける能力が人より少しだけ長けているんだと思う。


8月から毎日走るようにした。北沢川緑道を通り池尻大橋まで行き、246の坂道をのぼり、淡島通り沿いに帰ってくる。だいたい5km。本気でやったらどうせ続かないし、別に鍛えるためでもない。夏くらいから仕事に対して本筋とは別のモヤモヤとした悩みや憤りが一斉に膨らんできているのを感じていて、とにかく無心になりたくて始めた。去年も同じようなことがあったが、その時はサウナに頼った。息が荒くなって、酸素が足りなくなってきて、汗が止まらなくなってきて「キツイ…キツイ…」ってなって、不思議だけどそうするとやっと少しだけリラックスできる。それをせずにずっと家で椅子に座っていると、このまま体の内圧で風船みたいに膨らんでパンッて弾けそうな気分がしてくる。

人が人に対して何かを頼るとか任せるという事は、とても不安定で根気のいる作業だ。学生の時はクラス対抗リレーがあって、皆がそれぞれ50mや100mを走って繋いだけど、現実の仕事は少し違う。30人で5km走るということだけが決まっていて、それぞれの走る配分は様々だ。一番パフォーマンスがいい記録を求められる。

早朝、毎日1人で5kmを走りきって家に着きシャワーを浴びた後、一向に返事のない相手のことや、どうやって返事をしようか悩む下書きがあることや、根本的に通じ合えないと感じてしまう同業者について、考えたりしながら一日が始まる日々が夏から続いている。